アメリカの大学で日本太鼓公演 

聴覚障害者のためのワークショップを実施

 当財団では、6月22日から7月2日までの2週間、甲州ろうあ太鼓(山梨県)、太鼓集団天邪鬼(東京都)、サンフランシスコ太鼓道場(米国)を、ニューヨーク州・国立ろう工科大学(ロチェスター工科大学内)とワシントンD.C.にあるろう者のための学校であるギャローデット大学に派遣いたしました。

この公演は、太鼓が日本の伝統芸能としてだけではなく、ろう者の方にとって音楽を楽しむ一つの手段として親しまれていることを、より多くの方々に知っていただくため実施したものです。

公演は、国立ろう工科大学で開催された「聴覚障害者教育に関する国際シンポジウム」期間中での3公演、ギャローデット大学並びに米州開発銀行での各1回の公演、合計5回の公演を行いました。また、国立ろう工科大学では、初心者のための太鼓ワークショップも併せて実施いたしました。

今回の公演では聴覚障害者の皆さんにゴム風船を持ってもらいました。カラフルなゴム風船を会場でお客様に配布し、膨らませた風船を演奏時に胸や腹に当ててもらいます。すると、笛や鉦の音には反応しないのに、太鼓の振動はビビン、ビビンと面白いように伝わってきます。もちろん、風船が無くとも太鼓の振動は全身に伝わりますが、風船によりその振動が増幅され、よりはっきりと太鼓の音、響きを楽しんでもらうことができました。 

6月23日のワークショップでは、ろう者及び健聴者500名が会場を埋め尽くしました。塩見理事長から日本太鼓の紹介があった後、天邪鬼の渡辺洋一氏をリーダーとして実践指導を行いました。今まで日本太鼓を聴いたこともなければ、バチを握ったこともない人ばかり30名3組、計90名もの参加者に太鼓に触れてもらうことができました。最初は、少し恥ずかしそうに、中には自信ありげに太鼓の前に立つアメリカの大人と子供たち。渡辺氏の分かりやすい説明と、メンバー一人一人の丁寧なアドバイスで、1時間半のワークショップ終了までに、全員で一緒に曲を演奏することが出来ました。このワークショップの模様は、当日現地のテレビニュースで早速放送され、ろう者の子供たちが目を輝かせて太鼓を打つ姿が印象的だったと聞いております。

6月25日のシンポジウム開会式典では、日本財団笹川理事長が基調講演をされました。その後、笹川理事長より国立ろう工科大学へ太鼓2鼓が贈られました。これをきっかけに、ろう者の方々に太鼓を始めていただければ、という願いを込めて贈られたものです。

開会式典演奏後、25・26日の夜に同大学のパナラ劇場で行われた公演には、田中誠一氏を代表とするサンフランシスコ太鼓道場が加わりました。この2日間の入場者は合計1,800名。各公演共に満員で、観客は会場に響く太鼓の一打一打に圧倒されている様子でした。演奏ごとに両手を大きく振るという手話による拍手が送られ、演奏後には、会場のパナラ劇場開設以来一度もなかったスタンディングオベーションが起こりました。この公演では、日本テレビのN.Y支局が取材に訪れ、7月5日のニュース番組「プラスワン サタデー」の特集で、「将来、太鼓がろう教育に大きな可能性を与える」として、大きく取り上げられました。この放送は大勢の方がご覧になったようで、大変な反響がありました。

6月30日にワシントンD.C.ギャローデット大学講堂で行われた公演でも、会場を満席にする700名以上の観客が集まり、甲州ろうあ太鼓、天邪鬼の気迫に満ちた演奏に大きな拍手が起こりました。演奏終了後は、出口で甲州ろうあ太鼓が送り太鼓を披露しましたが、演奏をもっと聴きたいという観客が、メンバーを囲んでなかなか帰らないほどの人気ぶりでした。

今回は、2001年英国に派遣した知的障害者チームに続き、2回目となる障害者チームの海外派遣でしたが、どの会場でも、聴覚に障害を持つ人、持たない人に関わらず、多くの人から「太鼓の音を楽しませてもらった」、「勇気づけられた」という感動の声が聞かれました。甲州ろうあ太鼓のメンバーは、アメリカの手話をすぐに覚え、現地のろう者と交流を深める姿が見受けられました。

 

アメリカ太鼓公演を終えて

太鼓集団天邪鬼代表 渡辺 洋一

 私たち天邪鬼は「聴覚障害者と指導技術に関するシンポジウム」参加のため渡米しました。このニューヨーク・ロチェスター工科大学とワシントンD.C.ギャローデッド大学における太鼓公演とワークショップは、我々にとって大変有意義なものでした。日本の伝統文化である日本太鼓が一般の人だけでなく、障害を持った方々にどのように受け止められ、理解され、活用して貰えるか・・・。そういった意味でも大任を負ったツアーであったと思います。

 ワークショップでは、聴覚に障害を持った子供から大人まで、参加者500名の中から、90名に(財)日本太鼓連盟の5級基本講座の内容を基に指導しました。受講者には楽譜と身振り、そして見本で示す太鼓の振動により、太鼓の打ち方を実践してもらいました。短時間の指導でしたが、3フレーズも打てることができ、初めて触れる太鼓に興奮し、心から楽しんでいる受講者の笑顔が心に残りました。

 太鼓公演はサンフランシスコ太鼓道場、甲州ろうあ太鼓、そして私たち天邪鬼の3団体。公演後の客席はオールスタンディングとなり、心地よい疲れの中、無事に責任を果たすことが出来たという安堵感でいっぱいでした。この公演は、日本財団がグローバルに展開している聴覚障害者支援の一環として行われたものです。我々がその意義深いプロジェクトに直接携われたことに幸福を感じると共に、太鼓という楽器の新たなる可能性を見出した思いです。

 最後に一緒に舞台を努めてくれた甲州ろうあ太鼓とサンフランシスコ太鼓道場及び全てのスタッフの方々に心から感謝いたします。

 

アメリカ太鼓公演に参加して

甲州ろうあ太鼓代表 桜木 力

 「世界中にいる障害者の仲間を作りたい」聞こえなくても太鼓は打てる事を、国際交流を通して心から分かり合いたいという大きな夢を昔から持ちつづけていました。その夢の第一歩を実現する事が出来たのです。

 アメリカで初めて出演するという事で不安と期待を抱きながら演奏に挑みました。何回かリハーサルを繰り返していくうちに、次第に一体感を感じる事が出来るようになり自信も着きました。

 演奏会場は、自分が打った太鼓の音と反射音との時間差が大きいのだろうか、という不安がありました。ろうあ太鼓の練習場は狭いため時間差が無いので分かりますが、広い会場だと、太鼓の種類の音が聞き分けられるのか、反射音のタイムラグが大きいと、どちらに合わせれば良いのか分からなくなってしまいます。そのために小学校の体育館を借りて、音を合わせるための視線が視野にしっかり入るようにポジションの再確認、他諸々の方法で音を捉える厳しい稽古を行ってきました。

 今回、意外と好評だったのは風船でした。「風船に触ってみて下さい」と塩見理事長が会場のお客さんに英語で呼びかけてくださいました。笛、銅鑼、鉄筒、太鼓の順で音を出すと風船が音波を感じて反応するのですが、それぞれの楽器によって反応の仕方が違うのに驚いたようです。

 公演終了後、私達がロビーで送り太鼓を打っていると、お客様がダンスをしたりして、人だかりが出来るほどの盛況ぶりでした。

私達が、聞こえなくてもやれば出来るという事を多くのろうあ者達に見ていただいたこと、そして天邪鬼の皆さん、サンフランシスコ太鼓道場の皆さんと同じ舞台に立てた事を大変嬉しく思います、このような事は通常ありえないことですから。また、多くのことを学ばせていただき、今の自分の未熟さも痛感しました。

 パナラ劇場を寄付したパナラ夫妻がお見えになり、80歳になる夫人がリズミカルに太鼓を打たれたのには驚きました。観客のろうあ者に「前列は健聴者ですか」と訊ねられて「全員ろうあ者です」と答えると「凄い」と驚いていました。アメリカでは演劇、コーラス等はありますが太鼓のような音楽グループはありません。ろうあ者は太鼓が楽しめ理解できるジャンルですから、是非とも太鼓のグループを結成して欲しいと思います。

 アメリカ公演において、好評を得られましたが甘えることなく、益々気を引き締めていきたいと思っております。終わりに、この度の貴重な体験をさせていただきました()日本太鼓連盟の皆様方に深く感謝申し上げます。

 

<派遣メンバー>

<甲州ろうあ太鼓>

桜木力(代表)、小野智弘、井上直光、滝口寛光、猪岡哲也、

保延浩貴、山口龍太、河西召祐、米山和子、杉山悠美

<太鼓集団 天邪鬼>

渡辺洋一(代表)、小川ひろみ、川名真由美、涌井晴美、

馬場誠、影山伊作

<サンフランシスコ太鼓道場>

田中誠一(代表)、田中龍馬、前田レオ、木村ライアン、

ロビンソン・ワズウォース、池田マーク、ジョン・ロシュロー、

トーマス・トレイナー

<財団法人日本太鼓連盟>

塩見和子(理事長)、秋田稔(事業課長)、碇多香子(職員)